黒字倒産は、利益が出ているにもかかわらず、手元の資金が不足して倒産してしまう現象です。中小企業にとって、これは決して他人事ではありません。このコラムでは、黒字倒産のメカニズムを分かりやすく解説し、中小企業が取るべき具体的な回避策を、事例を交えながら紹介していきます。
黒字倒産を引き起こす5つの要因
黒字倒産は、「利益」と「キャッシュ」のズレによって起こります。以下に、黒字倒産を引き起こす代表的な要因を5つご紹介します。
1.売掛金の回収遅延
売上は計上されているものの、顧客からの入金が遅れると、手元のキャッシュが不足し、支払いができなくなります。
2.過剰在庫
売れる見込みのない在庫を抱えすぎると、キャッシュが在庫に固定されてしまい、資金繰りが悪化します。
3.過大な設備投資
将来の売上増加を見込んで高額な設備投資を行ったものの、計画通りに売上が伸びないと、借入金の返済や減価償却費が重荷となり、資金繰りが悪化します。
4.急激な売上拡大
急激な売上拡大は喜ばしいことですが、仕入代金や人件費などの先行投資が必要となるため、一時的にキャッシュフローが悪化することがあります。
5.不適切な資金繰り管理
日々の資金繰り状況を把握せずに経営を行っていると、いつの間にか資金がショートしてしまうことがあります。
黒字倒産を回避するための7つの鉄則
上記の要因を踏まえ、中小企業が取るべき具体的な回避策を7つの鉄則として解説します。
1.資金繰り表の作成と活用
将来の入出金予定を可視化し、資金ショートのリスクを早期に発見する。
2.売掛金回収の早期化
支払サイトの短い取引先を増やす、手形サイトを短く交渉する、ファクタリングを活用するなど。
3.在庫管理の最適化
在庫回転率を高める、需要予測に基づいた適切な在庫量を維持する。
4.投資計画の見直し
投資の必要性を慎重に検討し、無理のない範囲で計画を立てる。
5 . 入金と支払いのタイミング調整
入金と支払いのタイミングを調整し、資金繰りを平準化する。
6.資金調達手段の確保
融資、助成金、ファクタリングなど、複数の資金調達手段を確保しておく。
7.専門家への相談
資金繰りについて専門家(税理士、中小企業診断士など)に相談する。
ファクタリングとは?
上記で何度か触れている「ファクタリング」について、ここで詳しく説明します。
ファクタリングとは、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却することで、早期に資金を調達する方法です。
例えば、取引先への請求書(売掛債権)があり、通常であれば1ヶ月後に入金される予定だとします。しかし、すぐに資金が必要な場合、この請求書をファクタリング会社に売却することで、手数料を差し引いた金額をすぐに受け取ることができます。
ファクタリングは融資とは異なり、借金ではないため、負債が増えることはありません。また、担保や保証人も不要な場合が多く、中小企業にとっては資金調達の有効な手段の一つとなります。
ただし、手数料が発生するため、本来受け取るはずの金額よりも少ない金額を受け取ることになります。そのため、ファクタリングを利用する際は、手数料と資金繰りの状況をよく考慮する必要があります。
黒字倒産を回避した中小企業の事例
ここでは、黒字倒産の危機に瀕しながらも、適切な対策を講じて回避に成功した中小企業の事例を2つご紹介します。
事例1:売掛金回収の改善で危機を脱した製造業
この会社は、自動車部品を製造する従業員30名の中小企業です。近年、自動車業界の好調を受けて売上が急増していましたが、大口取引先からの支払サイトが3ヶ月と長く、売上が伸びるにつれて資金繰りが悪化していました。
●資金の状況
売上は前年比20%増と好調だったものの、手元の資金は徐々に減少し、従業員の給与支払いや仕入代金の支払いが危うく、一時は倒産の危機に瀕していた。
●解決策
ファクタリングを活用することで急場を凌ぎました。具体的には、3ヶ月後に入金予定だった売掛金の一部をファクタリング会社に売却し、手数料を差し引いた金額をすぐに受け取ることで、当面の資金繰りを確保しました。
また、今後は支払サイトの短い取引先を増やす、既存の取引先とも支払条件の交渉を行うなどの対策を講じることで、売掛金回収の早期化を図り、資金繰りの安定化に取り組んでいます。
事例2:在庫管理の最適化でキャッシュフローを改善した小売業
この会社は、地域密着型の小売店を経営しています。新商品を大量に仕入れたものの、近隣に大型商業施設がオープンした影響で、思ったように売れず、過剰在庫を抱えていました。
●当時の状況
仕入れた商品の30%が売れ残り、在庫保管費用がかさむだけでなく、キャッシュが在庫に固定されてしまい、他の支払いに充てることができず、資金繰りが悪化。
●解決策
在庫管理システムを導入し、過去の販売データや顧客の購買傾向などを分析することで、需要予測に基づいた適切な在庫量を維持するように改善しました。また、不要な在庫を処分するセールを実施することで、資金を確保し、経営の安定化に繋げました。
まとめ
黒字倒産は、中小企業にとって深刻な脅威です。利益が出ているからといって油断せず、常に資金繰りの状況を把握し、適切な対策を講じることが重要です。キャッシュフローこそ企業の生命線と言っても過言ではありません。
以下に、黒字倒産を防ぎ、企業を成長させるための重要なポイントを改めてまとめます。
・資金繰り表の作成と定期的な見直し
資金繰り表を作成し、将来の入出金予定を可視化することで、資金ショートのリスクを早期に発見することができます。また、定期的に見直しを行い、状況に合わせて修正していくことが重要です。
・売掛金管理の徹底
売掛金の回収状況を常に把握し、回収遅延が発生しないように努めます。必要に応じて、取引先との支払条件を見直したり、ファクタリングなどの資金調達手段を活用したりすることも検討します。
・在庫管理の最適化
在庫回転率を高め、不要な在庫を抱えないように努めます。需要予測に基づいた適切な在庫量を維持することで、キャッシュフローの改善に繋がります。
・適切な投資計画
投資は将来の成長のために重要ですが、無理な投資は資金繰りを悪化させる原因となります。投資の必要性を慎重に検討し、無理のない範囲で計画を立てることが重要です。
・専門家への相談
資金繰りや財務に関する専門家(税理士、中小企業診断士など)に相談することで、客観的なアドバイスを受けることができます。早期に相談することで、問題が深刻化する前に適切な対策を講じることができます。
これらのポイントを意識し、日々の経営に取り組むことで、黒字倒産のリスクを大幅に減らし、安定した企業経営を実現することができるでしょう。